flash back

夢よりもっと深く、闇の奥、その向こう側。
そこに落ちているのは、記憶の断片――？
　
　
　

苦しかった。いや、悲しかったのかもしれない。
　
これが夢であると、すぐに分かった。
暗闇に包まれる。妙に息苦しい感覚。
目覚めれば早い――と覚醒しようと意識を向けた、その時。
……涼！
夢にまで見る、彼の姿。ああ、でもこれも夢じゃないか。
それでも、笑う彼に触れたくて、私は手を伸ばす。
その手は彼の頬を捕らえるはずだった。
『お前は、逃げている』
ぐにゃりと涼は闇と一体化していく。
まるで心に直に話しかけられたようで恐ろしい程の衝撃が走った。
逃げる……？
『覚えていないのか』
涼は面影の無い程に変形する。
その、元は腹があった位置から、光が迸った。
私は思わず、目を伏せる。
次に、目を開けて見た光景は、こじんまりとした玄関だった。
見覚えは、無い。無いと思いたかった。
嫌な予感がした。
扉の影から、人が飛び出して来る。
ガリガリに痩せ細った女性が、腕を妙な方向に曲げながら。
口から吐かれるのは、唾液と呪詛の言葉。
ダダダと階段を駆け降りる音がする。
全身から口の生えた男がケタケタと笑いかけてくる。
思わず耳を塞ごうとしたところへ、後ろからはがい締めの手がやってきた。
異臭をさせて、その手の主は私に縋ってくる。
異臭の原因は、それが漏らす汚物だった。
私は、耐えようとした。耐えることを知っていた。
しかし、全ては、限界だったんだ。
あの時も。
「いやあああぁぁぁぁ！！」
　
　
気付いたら、自室のベッドに寝ていた。
悪夢だった。でも、内容は覚えていなかった。
最近、ずっとこんな調子だ。悪夢に揺り起こされて……。
ただただ、私は怯えていた。
それが、本当は現実なのだと、認めることに。